この照らす日月の下は……

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 事態が変わったのはそれから一年後だった。
 月とプラントとを結ぶシャトルの便数が地球連邦側の一方的な都合で半減したのだ。
 同時に、地球上で支配区域を巡り小競り合いが頻発するようになった。
 それはプラントに農業用プラントがないことが関係しているのだろう。
 今まではオーブからのシャトルだけではなく地球連合からのシャトルにも輸出のための農作物が詰まれていたそうだ。しかし、それらが届かなくなってしまった。
「プラントで野菜が食べられなくなるの?」
 それは身体に悪いのではないか。カリダにいわれているセリフを思い出しながらキラは聞き返す。
「そうならないようにサハクだけではなくアスハも動いている。それに、乾燥させればたくさん運べるしな」
 味はともかく、とカナードは続けた。
「とりあえず、今すぐにあちらがどうこうなるわけじゃない。お前の友達も大丈夫なはずだ」
 この言葉にキラはほっとする。
「……ラウ兄さんは?」
「それこそ心配するだけ無駄だ」
「どうして?」
「あいつはどんな時だろうと自分に有利な状況を引き寄せる。だから、プラントに行ったんだ」
 すぐにフォローできなくても自力で切り抜けられると判断されたから、とカナードは言い切った。
「そう言う点では、ムウよりもラウの方が強い」
 はっきり言って敵に回したくない。もっとも、そんなことを自分が言っていたと知られたくないが、と彼は続ける。
「だから、キラも内緒にしておけよ」
 そう言われてとりあえず首を縦に振っておく。
「ともかく、だ。野菜のことは心配しなくていい。少なくとも今は、だ」
 今後のことは話し合い次第だろう。彼はそう続ける。
「最終的にはオーブを経由してプラントに運ぶことになるだろうな。地球連合側も農家が作った作物が余っても意味はないし」
 むしろそのせいで当てにしていた金が手に入らないと困る人たちが出てくるだろう。だから、少し高くすることで妥協するのではないか。
「……そう言うものなの?」
「らしいぞ」
 詳しいことはわからないが、と彼は苦笑を浮かべる。
「まぁ、お前も知識として覚えておけ。俺たちにとって知識は力になるからな」
 知らないよりは知っておいた方がいい、と彼は続けた。
「……うん」
 そう言われてキラは素直に首を縦に振ってみせる。
「まぁ、お前がそれを使うようなことはさせないつもりだけど」
「僕だってお手伝いできるよ?」
「わかっているけどな。それでも、やっぱりお前には手出しさせたくない」
 男の意地だ、と彼は言い切る。
「それに……お前が知らない方があれこれと都合がいいからな。あいつがあれこれ聞こうとしても知らなきゃ応えようがないだろう?」
「……あれって、アスラン?」
「そうだ。最近、おじさんの仕事について興味津々だろう、あいつは」
 言われてみればそうだ。
「アスランはハード関係に興味があるみたいだからじゃないの?」
「そうだとしても機密についてあれこれと聞こうとするのはおかしいだろう」
 ちょっとしつこいぞ、と言われてアスランの言動を思い起こせばそうかもしれないとキラも思う。
「やっぱり出入禁止にしてもらうべきか?」
 カナードはそんなことも言い始める。
「でも、そうしたら学校で困る」
「わかっている。だから、俺が同席することで妥協しているだろう」
 それもアスランは気に入らないらしいが、とキラは心の中だけで付け加えた。
「でも、今のままならあいつもプラントに帰るだろうな」
 既に帰っている者達もいる。そして、転校が決まっている者達も多いらしい。だから、カナードの言葉は必ず現実になるだろう。
「コーディネイターもナチュラルも仲良く出来ればいいのにね」
「全くだ」
 でも難しいだろうな、とカナードはつぶやく。
「それをなんとかするのがあいつらの役目なのかもしれないが」
 それまで現状が維持できればいいな。カナードはため息とともにそう口にする。
 自分が知らないことも彼は知っているのだろう。だから、それが難しいこともわかっていたのではないか。後からキラはそう気がついた。
 もっとも、それは世界の天秤が大きく傾いた後だったが。


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最遊釈厄伝